大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和61年(ワ)845号 判決

原告

目川重治

右訴訟代理人弁護士

金井塚修

被告

京都市

右代表者市長

今川正彦

右訴訟代理人弁護士

崎間昌一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  原告の求める裁判

一  被告は原告に対し、金五万一〇〇〇円、及びこれに対する昭和六一年二月二七日から支払いまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

第二  被告の求める裁判

主文と同旨。

第三  原告の請求原因

一  原告は、肩書地に居住して、探偵興信業を営み、自宅前の京都市道の上空にかけて看板を設置している。

二  被告は、看板等路上物件適正化事業を実施し、昭和六一年二月一八日、測量会社社員及び被告建設局道路管理課職員をして、原告に対し、京都市道路占用規則による道路占用許可申請書の提出を求めさせた。

三  被告の右二の行為は、次の二点において違法である。

1  原告の道路上空の看板には道路占用許可を必要としない。

道路法にいう道路の占用とは、道路に、道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある工作物、物件又は施設を設けたうえ、継続して道路を使用することをいうのであつて、道路敷たる地面や路上交通に必要な空間とは無関係な上空のみの使用は、道路の占用とはいえない。

2  被告は従前から道路上空の看板には道路占用許可を必要としないこととしていたから、この慣行に反する取扱いは違法である。道路法も、道路を「使用しようとする場合」に限り許可を必要としている。

四  原告は、被告の右の違法な行為により、営業上の時間を空費して一〇〇〇円の損害を受けたほか、五万円と評価すべき精神的損害を受けた。

五  よつて、原告は被告に対し、右損害五万一〇〇〇円、及びこれに対する訴状送達翌日から年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四  被告の認否と主張

一  請求原因一の事実は認める。

二  請求原因二のうち、被告が看板等路上物件適正化事業を行つていたことは認めるが、その余は否認する。原告主張の日に被告の依頼した測量会社社員が原告方を訪問したことはあるが、それは看板等の道路占用状況の調査をしたものであつて、占用許可申請書の提出を求めたことはない。

三  請求原因三の主張は争う。

道路法による道路については、一般交通の用に供する以外の利用は、特に同法三二条に定める場合を除いては禁止されている。したがつて、同条に該当しないような利用も禁止されているのである。

そのうえ、道路管理権は社会通念上道路の管理に必要かつ充分な範囲で上空にも及ぶと解されるから、建物に取付けられた看板や日除けも、道路の占用にあたると解される。

四  請求原因四の事実は争う。

第五  証拠〈省略〉

理由

一原告が請求原因一のとおり、自宅前の京都市道の上空にかけて看板を設置していることは、当事者間に争いがない。そして、原告方前の道路の写真であることに争いのない検乙一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が設置している看板は、自宅建物に取付けられたものが三個あり、一つは道路面上約二・五メートルのところで道路上に約二〇センチメートルの巾で突出したもの、二つめは道路面上約三メートルのところで道路上に約六〇センチメートルの巾で突出したもの、三つめは道路面上約三・五メートルのところで道路上に約八〇センチメートルの巾で突出したものであること、右の看板よりなお高い位置には道路上に電力会社が電線を設置していることが認められる。

二原告は道路上空にあるその看板については道路占用許可を受ける必要がないと主張する。

しかしながら、道路の路面ではなく上空に存する物件の設置については道路占用許可を要しないとは断言できないことは、道路法三二条一項に電線、雪よけが例示されていることから明らかである。そして原告の設置した看板は、前記のとおり、道路面より二・五ないし三・五メートルの高さの位値に存するものであつて、この位置における看板の設置は道路交通に支障を及ぼすおそれがあるから、道路占用許可を得なければ設置が許されないものというべきである。

三原告は、道路占用許可の申請を求めることは、これを必要としないとの従前の慣行に反すると主張する。

しかしながら、道路管理者である被告は、道路法三二条一項各号に該当する物件の設置、道路使用については、道路法上、許可のないものに対しては、除却などを命じ、あるいは占用許可申請を促すなどをする国法上の義務を負うものであつて、仮にこの義務を一部怠つていた状況があつたとしても、そのために、その義務を免れたり、又は占用許可申請を促すことが違法となつたりするものではない。

四そうすると、原告が主張するように、被告が原告に対し道路占用許可申請書の提出を求めた事実が存したとしても、それは違法とは言えない。よつて、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官井関正裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例